【スペシャル対談】時代に負けない エステティシャン像とは?
日本におけるエステティック黎明期から長く業界に身をおき、第一線での活躍を続けるおふたりの先生に「日本のエステティックとは?」をテーマに対談をしていただきました。
藤井峯子先生(以下藤井) 私たちがこの業界に入ったころは、「美容」というと「美容師」の時代。「エステティック」は一般の方にとって「未知なるもの」という感じ。当時、私はトータルに女性を美しくすることを追求して、まずヘアメイクを志望して美容学校の門を叩いたのが、美容業界入りのきっかけでした。
佐藤玲子先生(以下佐藤) 私も最初は美容師を志し、「どうせ学ぶなら本場で」と渡仏しました。そこで初めてエステティックサロンの存在を目にし、「これで食べていけるんだ!」と衝撃を受けたのを覚えています。その後、『カリタ』のスクールで学びエステティシャンになりましたが、やはり国内で美容の仕事をするうえでは必須と美容師資格を取得しました。
藤井 当時はエステティックが何かわからないまま皆で手探りで教科書などを集めたりしたものです。国家資格取得のために美容学校では生理解剖から衛生、化学、美顔術まで人体に関することは学んでいましたので、海外の資料はとても参考になり、エステティックの教科書として最適でした。
佐藤 そうそう。こうした独学はフェイシャルの手技に限らずボディメイクや栄養学といった広い分野でしたよね。現在、「エステティックといえば脱毛と痩身」というイメージが強いように思いますが、私のサロンでは20年前にメニューから外してしまいました。本来、エステティックは肌をケアするもの。毛穴の汚れをとって角質を落とし、ローション、美容液、クリームを使っての基本的な「お手入れ」がベースです。ボディケアにしても、お客様の体に合わせて、ベーシックなケアを続けることで肌を整え、美しいラインを形作っていくのが基本でした。極端な効果のみを追求する現在のやり方は、エステティックの本道かしら? と疑問です。
自宅ケアを補うのがサロンケアであるべき
藤井 海外のメーカーではサロンで使用するプロ用と、自宅でお使いいただくホームケア用のコスメとは、明らかに差をつけたものが多いですよね。サロンでケアをしていても、自宅での努力がなければ効果につながらないこともよく知っていて、そのアドバイスもプロとしての役割でした。そこがうまく引き継がれていかず、「サロンにさえ通えば効果が出る」とお客様に思わせてしまったことも信頼を崩してしまっているのかもしれない。結果、ホームケア商品を売ることを罪悪のように思ってしまうエステティシャンが多くなってしまったのでしょう。しっかりしたアドバイスの上にお手入れの重要性をお伝えすることも大切なことです。
佐藤 私のサロンへ長く通っていただいているお客様のなかには、「前日にパックをして肌を整えてきた」とおっしゃる方がいます。これは、お客様に美しくなっていただくために、時には厳しくホームケア指導を行なってきた成果が実を結んだと思っているの。ぜひ皆さんも、サロンに頼るだけではなく、ご自身でも美を追求する努力をしていただくよう導くべきよね。
藤井 健康的な美しさを求めていくには、総合的なアドバイスと納得していただく指導力も必要ですよね。そのために私たちは自分への投資をしてきましたよね? いまは「教えてもらえるもの」と思っている人たちが多いんじゃないかしら。でも、時間やお金をかけて学んだことでないと、諦めてしまうのも早いですよね。確かなバックグラウンドからお客様お一人お一人へのコンサルティングに基づいたアドバイスができないと、サービスや商品をおすすめしても「エステティックサロンは何を
買わされるかわからない」という不信感が生まれてしまいます。お客様の満足はエステティシャンの満足であり、信頼はリピートにつながるのだから、努力を惜しまないでほしいですね。
佐藤 昔はエステティシャンといえばお客様から憧れていただかなくては成り立たないというところがあり、みんな必死で努力したもの。美容学校で学んだことを土台に、ハンドテクはもちろんメイクアップからネイルまで、お金をかけて独学で学んだものです。これも目標があったからこそできたこと。今のエステティシャンには、私たちが若いころに持っていたような明確な目標がないのかもしれませんね。
藤井 機械の取り扱いと技術だけを学べばエステティシャンになれると思っている方も昔からいらっしゃいますね。私のスクールでも「なぜエステティシャンに?」と聞くと「人をきれいにしたいから」というので「では、まず自分からよね」というと、ビックリされるの(笑)。学ぶことによって内面の自信と豊かさが得られ、お客様から憧れられ信頼されるエステティシャンに成長していくのよね。
憧れが信頼をつくる。自分軸を持って
佐藤 ホスピタリティは人を思いやる気持ちから生まれます。若い人たちは、怒られるうちが華と苦労を買う気持ちで、与えられた仕事を一つひとつこなして欲しいわね。みなさんの必死な姿は、お客様にも必ず伝わり、いつか認められる日が来るはず。
藤井 私は、現場に出て困らないように、考える力と自らの努力で切り開く力強さと判断力を身につけてもらうことこそ、エステティシャン教育には重要だと考えています。お客様の心に触れる人間性を養い、技術を磨いていけば、自然とお客様はついてきてくださいます。
佐藤 お客様との信頼関係を築くことは、いまも昔もエステティシャン
の最重要課題。ご自身で努力しないまま効果を求めるようなモンスター
顧客は時代を問わず存在しているから、困ったお客様には毅然と向き合
い、できないことはできないと言うべき。私は、「何回通えば望む効
果が得られますか?」という質問には「お客様次第ですね」とお答えす
るようにしています。憧れられ、信頼されるエステティシャンであれば、
お客様は必ず頼ってついてきてくださいますから。
藤井 わがままな要求をされるお客様は、言い換えれば確たる自分軸をお持ちの方。エステティシャンの方でも経験、勉強を重ねてブレない自分軸を育てておけば、そうしたお客様と対峙しても屈することはないものね。正直に仕事と向き合い、自分の価値を上げていくことを常に意識してほしいと思います。プライドと信念を持ったエステティシャンこそ、お客様は求めていらっしゃるのではないかしら。
藤井峯子先生
「ラピスクーナ」プロデューサー「イルミア・アカデミービューティースクール」学院長。1980年、CIDESCOを取得。2001年「イルミア・アカデミービューティースクール」設立。