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仕事は人生を運命づけるもの。だから「大好き」にならなくては

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技術面でもグランプリを受賞、ホテルの社長に就任。現在までの今野華都子氏の足跡をたどるインタビュー。2009年の本誌から抜粋してお届けします。

 

 

技術者として、経営者として。人から信頼を得ることがすべて


 

花上 2004 年には第一回LPG インターナショナルコンテスト フェイシャル部門で、世界110 カ国の中から最優秀グランプリを獲られましたね。そのときはどんなお気持ちでしたか?

 

今野 おかげさまでフェイシャル部門において世界一という賞をいただきました。それは、ただひたすら、お客様一人ひとりのお悩みと向き合い、「どうしたらこの人をきれいにすることができるのか?」ということを日々、考えてきた結果なのだと思います。目の前に来る人のことを考えて、その人を喜ばせるためにはなにをしたらいいか。来る日も来る日も、真剣に考えていましたから。

 

花上 短いキャリアの中で世界ナンバーワンになられたのも、お客様に向き合う真摯な姿勢や、細やかな心遣いをされる中から勝ち取れたものなんですね。そこから、現在のポジションである『タラサ志摩ホテル&リゾート』取締役社長に至るまでにはどのような経緯があったのでしょうか。

 

今野 エステティシャンとして講演を依頼され、そこで出会ったのが、現在の代表取締役である野沢宜巳氏でした。野沢氏は、私が講演の演台に立つまでの10秒足らずの合間に「『タラサ志摩ホテル&リゾート』の社長はこの人だ!」という直感が走ったといいます。17年前、アジアで初めて代替療法のタラソテラピーを始めたのがこのホテルで、当時は一世を風靡しました。しかし、不況やさまざまな出来事を経て、私が野沢氏と出会ったときには、すでに36億円の累積赤字を抱えていました。ホテルの社長に、というお話をいただいたとき、私にはそのときの人生がありましたし、興味もなかったので、お断りしていました。しかしお誘いを受けている中で、人には運命というものがあるということを感じ、この仕事を引き受けようと思ったのです。

 

花上 さまざまな事情から、当時のホテルはすでに36億円の累積赤字を抱えられていたとのことですが、社長というポジションを任せられて、いったいどのようなプロセスを踏んで好転させていかれたのでしょうか。

 

今野 当時の『タラサ志摩ホテル&リゾート』は、たった1年の間に支配人が4回も交代したり、スタッフの入れ替わりもはげしく、従業員一人ひとりに信頼できる上司がいないことに気づきました。そこで、150名ほどの従業員全員と、3カ月かけて面談をいたしました。

 

花上 従業員の方お一人おひとりと、マンツーマンでお話をされたのですか?

 

今野 はい。すべての問題は原因がわからなければ解決できません。一人ひとりの悩みや不満を洗い出して“何がその問題の原因なのか?”ということを探っていきました。ヒアリングする中では、じつにさまざまな問題がありましたが、大概の問題は原因が不明瞭なものばかり。たとえば「仕事がつまらない」などです。「仕事がつまらない」という場合、その原因として「忙しいのが嫌い」、「一緒に働いている人が気に入らない」、「担当の仕事が好きではない」、「残業したくない」など、さまざまな理由が考えられますね。そのように、一人ひとりの問題の根底にある原因を、一緒に解明していきました。社長として話を聴き、理解し、会社の問題を解決していくことはもちろん、「自分の悩みは何か?」、「何が原因で悩んでいるのか?」おのおのが、自分自身の問題を正面から捉えて、解決の方法を探していくことが大切だと考えました。

 

花上 悩んで立ち止まるのではなく、自発的に考えるようになったのですね。

 

今野 人は、原因を知ることをおざなりにすると、悩みの袋小路に陥っていきます。自分がやっていることはあれでいいのだろうか、これでいいのだろうか、と、とりとめなく思い悩むことになるのです。すると、「上司と合わない」、「周りの人と合わない」など、ついつい他人のせいにしてしまうんですね。私は従業員たちに「話してくれたことはよくわかりました。では、あなたはどうしてここで働いているのでしょう?」と訊ねました。つまり、今という大切な人生の時間をここで過ごすと決めたのは、自分自身。それなのに、どうして今抱えている悩みや不安に対する原因を探ろうともせず、目の前にあることに対して自分を活かそうとしないのでしょうか? と、問いました。個人の中にある問題は、会社にはどうにもならないことがあります。自分自身の心を前向きにするのは、一人ひとりが自分に問い、解決していくしかありません。

 

次のステージに上がるためには、まず、目の前のことに必死に取り組んだらいい


 

 

花上 忙しくなるとついつい、周りが見えなくなったり、その先にある目標を見失ったりしてしまう人が多いように思います。つねに客観的に自分を見て、マイナス要素を削ぎ落としていくことが大切なんですね。これまで、今野さんが人を育てる上で、心がけていらっしゃることはありますか?

 

今野 従業員には、「目の前のことを好きになりなさい。大好きになりなさい」ということを、伝えています。自分が持っている能力を生かして、目の前にあることに役立てること。そして、生きていく中で自分を使ってもらえることに幸せを感じること。それが結果的に、自分の心を高め、他の人の幸せにもつながるのです。また、好きなものはとことん突き詰めていけばいいと思います。その中で、倒れるくらい頑張って、無我夢中にやってみたらいいと思います。それくらい必死になっているときに、一番、人は成長するもの。人にどう思われるかを基準にしていると、人のジャッジが気になりますが、大事なのは、「自分の価値観をしっかりと決める」ことです。人にどう思われようとどうだっていい。次のステージに上がるためには、まず、目の前のことに必死に取り組んだらいいんです。忙しいのはみんな同じ。そもそも、私の睡眠時間は平均3時間半くらいで、それをもう何年もやっていますよ。

 

花上 3時間半ですか。体がこたえませんか?

 

今野 寝られなくて大変かといったら、そうでもないですよ。眠たい人は寝ればいい。もちろん、寝なければ健康にも良くないですからね。でも、楽しくて寝られない人は寝なくてもいいでしょ?  私は仕事が大好きだから、仕事をしているときは楽しくて時間を忘れてしまうんです。ゲームでも、読書でも、好きなことをしているときは楽しいですね。反対に、義務でやることは楽しくないものです。自分が働きたいから、睡眠時間を削っても働く。人は死にそうになったら必ず寝るから大丈夫よ、って思っているんですよ。とくに、人は多くの時間を仕事に費やし、仕事によって自分の人生を運命づけるともいえます。ですから、「(今ある)仕事を大好きになる」ことが大切、ということもいえますね。

 

花上 かなりタフなお考えですね。とはいえ、そうして自分の能力を高め、磨いて、ステップアップしていくことが、人生の課題のひとつなのかもしれませんね。今野さんは著書の中で、工学博士でありオピニオンリーダーでもある五日市 剛さんとの対談をされていますね。ご自身が大切にされている言葉はありますか?

 

今野 「心は行動なり、行動は習慣を創り、習慣は品格を創り、品格は運命をも決す」という言葉です。これは『運命を変える言葉』の中でも出てくる言葉。生き方で大事なのは、人は、毎日していることでしか、作られていきません。毎日、歯を磨いてご飯を食べて、仕事をして……。そのような日常の時間をどのような想いで過ごしていくか、それがすべてだと思います。習慣が、その人の生き方を決め、魂の品格を高めていくのです。その人が、どんな仕事をしていようが、同じことです。

 

花上 その言葉は、今野さんの人となり、そのものではないかと思いました。日常の小さな習慣をプラスに積み重ねてこられたからこそ、今野さんのひときわ高い品性が成り立っていくのですね。貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。これからのますますのご活躍を、お祈りしています。

 

 

今野華都子 Katsuko Konno

三重県鳥羽市にある『タラサ志摩ホテル&リゾート』取締役社長。日本エステティック協会認定エステティシャン。日本エステティック業協会認定講師。2007年4月、まったく経験のないホテル業のトップに就任。当時、経営不振だったホテルで従業員一人ひとりと向き合うことで再建に成功する。著書に「運命を変える言葉」(知致出版)、「顔を洗うこと 心を洗うこと」(サンマーク出版)などがある。

公式サイト https://www.konno-katsuko.com/