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クリエイティブに感動していただきながら、美容を好きになってもらいたい

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日本髪の伝統を引き継ぎながら、クリエイターとしても活躍する新井唯夫氏。本誌2010年に掲載されたインタビューから、一部抜粋してお届けします。

 

 

業界の発展には、お互いにwin -win の立場でなければなりません


 

花上 新井さんは、お父様が立ち上げられた「美容研究全国新井会」の2代目として主宰され、年間2万人もの方々に向けて、その伝統技術をお教えになられているということですね。そのように、“伝統を守り抜く”ことは並大抵のことではないと察しますが、2代目として受け継がれたときにご苦労されたことなどはありますか?

 

新井 そうですね。かつて父が主宰していた時代には、個々の美容師が各支部に組織された状態で講習会が行なわれていました。すると、次第に派閥ができたり、古くからの先生方で固まってしまったりして、若い人たちが入りづらい雰囲気ができ上がってしまっていました。私が2代目として受け継いだとき、なんとかしてそのシステムを変えていきたいという思いがありまして。まず、美容ディーラーやメーカーに声をかけました。ディーラー・メーカーに講習会を主催していただいて、受講料集めや運営を行なっていただく代わりに、そこで利益を生んでもらう。そうすることで、それまで主催していた美容師はゲストという立場になり、運営の手間も省けます。また、ディーラー・メーカーの方々に宣伝していただくことで美容師ならば誰でも参加できる仕組みづくりが実現できる。そういったシステムにした結果、業界の中での連携が上手にとれるようになったと思います。

 

花上 そういった仕組みづくりは美容業界の向上にもつながりますね。素晴らしいと思います。

 

新井 業界の発展には、ディーラー・メーカー・サロンがお互いにwin -win の立場でなければならないと思いました。やはり業界が大きくなるにつれて、いろいろな意味で偏りが出てきてしまうのは否めません。しかし、それでは技術や情報の共有ができないのも事実です。ですから、講習会やイベントの人気が高くなってくると、受講料をはね上げたり敷居を上げたりするのが一般的ですが、一定の金額以上は上げないような規定を作るなどして、平等なシステムを実現しました。

 

花上 なるほど。エステティック業界にも見習うべき点があることを感じます。ところで、新井さんは、ヘアメイク業界で頂点を極められている方の一人ですね。とくに「アップスタイル」の第一人者として、確固たる地位を築かれていらっしゃいます。その陰には多大なる努力やご苦労があったことと思いますが、そのように高い目標を達成するまでの道のりでは、何が支えになっていたのでしょうか?

 

新井 人間というのは生きるうえで、つねに誰かと接しながら生きていますね。とくにメイクアップやエステティックに関わる仕事をしているなかでは、相手のことをよく観察したり、気持ちを理解したりすることが技術以上に重要なことになってきます。私は、「相手がよくならないと、自分もよくならない」、逆も然りで「自分がよくならないと、相手もよくならない」そんな風に考えながら、自分を成長させてきたように思います。

 

 

技術を高めていくと同時に人間性を育てなければ、いくら努力しても負けてしまう


 

花上 相手と自分を相互に思いやる気持ちを大切にしてこられたわけですね。新井さんが講師を務める講習会の中でも、そのような精神論をよくお話しになられるのでしょうか。

 

新井 よくお話しさせていただいています。たとえば、「『いくら練習しても技術が上達しないが、優れた人間性を持っている人』と、『非常に優れた技術があるが、人間性を欠いた人』は、どちらが先に成功するか」といった類のお話です。結果からいうと前者であるわけですが。いくら技術に長けていても、相手の心を見抜く目がなかったら全然関係ないことをしてしまうこともあります。それでは単なる自己中心的なサービスになってしまいますね。逆に、人間性がよくて技術が下手という人は、相手の気持ちを汲むことはできるので、“相手が何をして欲しいか”を理解することができます。少ない技術の中でも、はずさない。相手に寄りそったサービスが提案できるのです。同じ技量の人が二人いたとしたら、やはり思いの強さだったり、好きの度合いだったり、人とのつながりだったりとかが大事になってきますよね。そういったことがあると、すごい人に教えてもらうチャンスが得られたり、思いがけない好運が舞い込んできたりすることもあります。ことトップの世界になってくると、ちょっとした違いがすべてを変えてしまうこともありますから。技術を高めていくと同時に人間性を育てなければ、いくら努力しても負けてしまうことはあるかもしれませんね。

 

花上 上をめざしてがむしゃらに努力することも必要ですが、人間関係や心持ちを高めことが大切なのですね。新井さんは毎年、年間のテーマを決めて活動をなさっているそうですね。毎年12月に行なわれるヘアショー「アップスタイルヘアコレション」で、翌年のテーマを発表されるのだとか。

 

新井 はい。毎年、その年に自分たちにとって必要なテーマ、スローガンを掲げて自分の思いを確立します。これは、社内でのさまざまな事に影響されていきます。これまで、「JOY OF LIFE」や「デコレーションビューティ」、「ROCK」などがありました。その時期の自分の気持ちや流行なども踏まえてスローガンを立てています。

 

花上 なるほど。スローガンを掲げることによって目標をしっかりと見据えて、着実に進んでいくことができますね。ちなみに、2010 年のテーマは何ですか?どのようなことを目標にしていらっしゃるのでしょうか?

 

新井 2010 年のテーマは「HAPPY♥ POP」。“美容の仕事を通じて幸せを表現し、そこにいることで周りが幸せになるような自分をめざしたい”と考え、このテーマを掲げました。子どものころ、変な髪形になると悲しくて泣きそうになったことはありませんか? でも反対に、素敵な髪形にしてもらえると、うれしくて、ウキウキした気分になったことを思い出します。そのような気持ちは誰しも、大人になっても同じこと。ヘアスタイルやメイクがキマると、心が弾んで、洋服選びもいつもよりちょっと気合いが入りますね。お気に入りのファッションやおしゃれなヘアメイクができることによって、心の健康をもたらし、素肌も自然ときれいになっていくのだと思います。すると、そこには必ず、健全な心が育まれ、人々に笑顔が生まれます。また、明るいところには人が集まり、そして幸せな空気が満ちあふれます。

私はクリエイターとして相手を感じて表現しながら、心が元気になる髪形や、施術や、空間をプロデュースしていきたいと考えています。お客様一人ひとりに「Happy =幸福」や「Pop =弾ける」気持ちを提供し、私の創造力が生み出すクリエイティブに感動していただきながら、美容を好きになってもらいたい。偉大な美容の世界を私にかかわるすべての人と分かち合いながら、今後も幸福感を共有していきたいと思っています。

 

花上 外面の美しさだけではなく、心から喜びを感じることが真の幸福をもたらすのですね。最後に、美容業界に携わる人たち、今後、美容業界をめざす人たちへ、メッセージをお願いします。

 

新井 美容業界に携わる人にかかわらず、きっと誰だって、頑張ってもうまくいかなくて自己嫌悪に陥ったり、気持ちがめげたりした経験があると思います。失敗して叱られたり、傷ついて立ち直れなかったり、不安や緊張のあまりパニックになってしまうことも、少なからずあるでしょう。そんな時は、自分自身の澄んだ心を呼び戻して、もう一度原点を見つめ直すこと。それによってさらに傷ついてしまうこともあるけれど、前に進んでいかなければ何も探せないですし、何も得られません。確かに苦しい日々を過ごすのはつらいこと。でも、そういう時だからこそ、順調な時には意識さえしなかった友情だとか、人の優しさに気づけることもあると思います。年齢を重ねれば偉くなって失敗もしなくなる、というわけではありませんし、一度身につけた技術が永久に身についてくれるものとも限りません。自分の未熟さを思い知らされることはよくあることです。だとすれば、つねに努力を継続しつづけるしかないのではないでしょうか。そんななかから、美しさへの創造力が生まれ、お客様へ喜びを与えることができるのだと思います。

 

 

新井唯夫 Tadao Arai

「FEERIE」銀座店やエステサロンでのサロンワークのほか、美容専門誌やテレビ番組に出演する人気ヘアスタイリストで認定エステティシャン。毎年全国各地で数多くのヘアショーや実技講習をプロデュース。受講者は年間2万8千人を超え、過去の講習回数は1700回に及ぶ。都内にサロン「FEERIE」を6店舗展開する「株式会社アライタダオエクセレンス」と、みずからがプロデュースしたビューティアイテムを販売する「株式会社ジュニュイン」のPresident&C.E.O。「美容研究全国新井会」主宰。

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