美容業に携わる人はお客様への配慮と人間的魅力が必要
エステティック通信2013年4月号では、日本のヘア・メイク産業の成長期にトップアーティストとして活躍、現在でも第一線で活動しながら、資生堂学園 資生堂美容技術専門学校学校長として教鞭をとる大竹政義氏にお話をうかがっています。
美容において最も大切なのは人と人との関わり
花上 大竹様は、ヘア・メイクというクリエイティビティの要素が大きい仕事においても、お客様に対する配慮を重視していらっしゃいます。その理由をお聞かせください。
大竹 美容師は、専門学校で技術を学び、国家資格を得た後に就職、店舗スタッフとして技術を学びながらお客様に接していきます。私は高校生の時に美容師を目指し、上京して前身の資生堂美容学校に入学しました。以来、がむしゃらにテクニックを学び続けたのですが、ある時お客様に接している際に、自分の至らなさにはっとしたのです。確かにヘア・メイクは創造性が必要とされる職業なのですが、決して芸術家ではありません。なぜなら、目の前のお客様に、いかに満足していただけるか、心地よく時間を過ごしていただくか、これに心を砕かなければならないからです。また、美容師はお客様の肌や髪に直接触れる職業でもありますので、お客様の信頼を得る必要があります。高い技術はそのための一つの要素にすぎません。お客様への心遣いやきちんとしたマナー、そして人間的魅力。これらをバランスよく兼ね備えなければならないと考えています。
花上 常にお客様の満足を考えなければならないのですね。学生の方にはどのように指導をされているのでしょうか。
大竹 私はまず「あいさつを徹底しましょう」と指導しています。声をしっかり出して「おはようございます」と言うところから始めれば、そのうちきちんとしたあいさつができるようになります。多くの学生は、高校を卒業してからすぐ専門学校に入学しますから、18歳~20歳と若い。卒業後はすぐに就職しますから、専門学校生のうちに社会人としてのマナーを身につけておかなければなりません。あいさつはもちろん、時間を守ること、約束を守ることなどといった、“人として当たり前のことができるようになりなさい”と教えています。技術偏重ではいけません。社会人として当然のことができ、お客様の気持ちに配慮できるようになることは、すべてのサービス産業において基本ではないでしょうか。
花上 お客様へのおもてなしが重要という点は、エステティシャンやセラピストとも共通しますね。
大竹 美容師という職業は、実は年齢は関係があるようでありません。若い感性や、反対に年齢とともに養われるものが必要な時もあるかもしれませんが、芸術家ではないので、“円熟味”や“熟練”の技が最優先に求められるとは限りません。それよりも、お客様と接する限られた時間のなかで、いかに自分の技術を最大限に発揮できるか、そしてそれを若いうちからできるようになるかが重要だと思います。
美容の世界においては“努力は天才に勝る”
花上 ところで、大竹様は「努力は天才に勝る」と仰っているそうですね。なぜでしょうか。
大竹 これまで長年ヘア・メイク産業に携わってきましたが、美容の世界で“天才”とい
う人を見たことがない、というのが第一でしょうか。例えば、スポーツの世界では才能というのは大きく影響するのかもしれません。美容においても、ヴィダル・サスーン氏などが高名ですね。時代の芽を捉えたり、新しいテクニックを生みだしたり、といったセンスや才能は高く評価されています。しかし、そもそも美容という分野は、人それぞれが持つ才能だけで、花開くわけではないと考えています。だからこそ、学生には、とにかく努力をしなさい、と教えているのです。私自身がコンテストにおいて成長し、それが現在の基礎となっていることから、学生にも大きな舞台で挑戦したり、競ったりということを勧めています。成功した体験は自信に繋がるからです。しかし一方で、いくら努力をしても報われないという時もあるのですね。そうした学生をケアすることも、教師には必要であるなと感じています。
また、一流になりたいならば、一流のものを見て審美眼を養いなさい、とも教えています。これも私が海外において学んだことの一つですね。世界のトップといわれる人たちには、技術はもちろん、優れた審美眼があるのです。これがないと勝負ができない。だからこそ、感性を養いなさいと教えています。今の学生は技術的には未熟であっても発想が豊かで、クリエイティビティがあると感じていますので、ぜひ活かしてほしいですね。学生には、制作発表の場などをはじめとして、私自身が直接、指導をする機会を設けています。
花上 最後に、美容業界へのメッセージをお願いします。
大竹 化粧も髪を結う文化も、有史以来から存在しています。女性はもちろん、男性だって美しくなりたいもの。その欲求は本能のようなものでしょう。人間の営みにおいて永遠に続く産業であり、それだけ価値のあるものだと感じています。ぜひ世の中のニーズを的確に捉え、役割を果たしていただきたいですね。
大竹政義 Masayoshi Otake
1948年新潟生まれ。資生堂美容学校(現・資生堂学園 資生堂美容技術専門学校)卒業後に株式会社資生堂に入社。資生堂の宣伝広告や世界各都市のコレクション活動に携わった後、資生堂ビューティークリエーション研究所長、SABFA校長を歴任。2004年に「現代の名工」を受章、08年に黄綬褒章を受章。著作には「日本の美容家たち マサ大竹」(新美容出版株式会社)など。日本ヘアデザイン協会副理事長、インターコワフュール・ジャパン(世界美容家協会)副会長、資生堂美容室株式会社副社長を兼務。