現場を知る技術者にこそより高みをめざしてほしい
「現場をしる技術者にこそより高みをめざしてほしい
そのための教育を実践」
ミス・パリ・グループ 株式会社ミス・パリ
「エステティック ミス・パリ」「男のエステ ダンディハウス」
代表取締役 下村 朱美氏
【Profile】 Akemi Shimomura
各ブランド国内105店舗、海外7店舗のほか本格的にエステティックを学ぶ専門学校を展開。SPA・エステティック業界初の世界優秀女性起業家賞などを受賞。2014年一般社団法人東京ニュービジネス協議会(東京NBC)の会長に就任。全国の経済団体における初の女性会長としても注目されている。
エステティシャンのお仕事はお客様に寄り添い支えること
-業界において多くの企業が人材不足に悩む昨今、
「求めるエステティシャン像」についてお聞かせ願えますか?
下村氏 1982年、大阪に痩身専門サロンをオープン、その後日本初の男性専門サロン「ダンディハウス」も展開し、男女問わずたくさんのお客様に接してきました。女性のお客様からは「年をとるのが怖いから、この先もずっとお手入れをお願いします」と言われる機会も多く、エステティシャンというのはつくづくお客様の人生に寄り添う仕事だと感じます。美しさ、すなわち若さや健康は、心と体の両面が整ってこそ成し得るもの。食事、睡眠、運動といった生活習慣を整え、規則正しい生活を送ることが必要不可欠です。それなのに、どんなに高い教養を持つ人でも、自分自身には無頓着になってしまいがち。そこに寄り添って、一緒に歩むことで、心と体のバランスを整えて差しあげるのが、本当の意味でのプロなのではないでしょうか。エステティシャンがいなくても人は生きられます。しかし、エステティシャンが寄り添うことで、より素敵な人生を送り、幸せを築くことができる……。それが、エステティシャンとして求められている姿なのだと私は思います。
-技術に限らず、お客様の人生に寄り添う存在こそが
エステティシャンであるということでしょうか。
下村氏 肌をきれいにしたり、プロポーションを整えたりといったプロの技術は、それだけでよい変化を生み、それが心にもポジティブな影響を与えます。しかし、エステティシャンに求められているのは、そうした技術だけではないのです。ICT化が進み、人の温もりを感じる機会が減少している昨今、手の温もりを伝えるエステティシャンの仕事は、時代に求められている仕事です。さらに、たわいのない会話からも「大切にされている」という実感を得られるコミュニケーションの場としても、エステティックサロンは存在しているのです。
-求められるエステティシャンを生み育てるため、
御社が取り組んでいらっしゃることは?
下村氏 最初にサロンをオープンしたきっかけが「理論のわかるサロンをつくりたい」という思いでしたから、お客様も技術者も理解し納得して取り組める施術の体系化と、それを伝えることに力を尽くしてきました。サロンオープンの8年後、1990年にはそれまで練りあげたノウハウを体系的に学べるスクールを開校。2008年には「ミス・パリ学園」として学校法人化。全国4校の専門学校を運営し、お客様や企業から必要とされる人材の育成に取り組んでいます。エステティックスクールは儲からないといわれますが、この世界は「人」がすべて。サロンのお客様からいただいたお金でよい技術者を育てることこそ、長い目で見てのお客様への還元につながると考えていますので、たとえ利益が出なくとも「教育のミス・パリ」として学校運営は継続していきます。
-「ミス・パリ学園」は質の高い人材を輩出するとして
他企業からも注目を集めているようですね。
下村氏 「教育のミス・パリ」だからこそ、その内容には一切妥協していません。カリキュラムの約半分を占める技術の授業では1クラスに4人の先生がついて徹底的に指導します。他校では年間300時間程度のカリキュラムが多いようですが、「ミス・パリ学園」では2年間で2085時間も学べるという、まさに「エステティック漬け」の環境です。例年500人弱ほどが卒業しますが、うち150人ほどが弊社に入社。入社後は800時間にも及ぶ研修を経て、プロフェッショナルとして十分な知識と技術を身につけてからお客様に向き合うのです。
社内教育が充実しており、入社時期に合わせたステップアップ制度で、社内資格を取得。
技術の統一化と、社員のモチベーションアップにつながっている。
サロンに通う男性が年々増加する中、34年目を迎えるダンディハウス。
男のエステ「ダンディハウス」レセプション。ダークカラーで品よくまとめたシックなインテリアが、
男性でも入りやすく落ち着く空間を演出している。
「ビューティ&ウェルネスについて学べる専門職大学を構想中!
エステティックはさらなる高みへ」
「教育のミス・パリ」が新たに専門職大学を構想
-さらに、新たな教育の場を模索されているとうかがいましたが?
下村氏 エステティックの専門職大学を構想中で、2021年の開校をめざして計画を推し進めています。4年生で学士を取得できる大学です。エステティックは現場で技術を提供し、接客をするスタッフだけでなく、マネジメントや製品開発、技術開発といったさまざまな立場の人材で成り立っています。マネジメントや開発といった立場の人材は大卒者が中心となっていますが、本当に現場がわかる人材にこそ、この立場をめざしてほしいと思います。お客様の思いと現場をよく知る技術者が、現場の仕事のみに満足することなく、より大きな成功をめざしてこそ、エステティックそのものがさらに上の高みへと洗練されていきます。開発者や経営者としての土壌を学生時代に養っておくことは、未来のエステティックを考えることで必要不可欠なことなのです。さらに、国際的な競争力をつけるためにも、大学の必要性を実感しています。以前は専門学校卒でも5年の実務経験があればアジア諸国での就労VISAが取得できましたが、現在では4年制大学を卒業していることがVISA取得のための条件となっています。弊社は上海、香港、台湾などにもサロンを展開していますから大卒のエステティシャンを育てることは急務なのです。
-構想中の大学ではどのような教育を実践される予定ですか?
下村氏 ビューティに関わる知識や技術はもちろん、ウェルネスについても学べる美術&保健衛生系の学部の設立を考えています。さらには、サロンの現場で本当に使える学問として、例えば各国大使による「この文化ではこの態度が失礼にあたる」といった国際文化論のような授業など、エステティックやホスピタリティについて、多角的に学べる場となる予定です。また、私は日本人の美意識の高さや五感の鋭さ、技術の繊細さ、そして相手を理解し喜ばせようとする“おもてなし精神”は、他国の文化にない素晴らしいものだとつねづね感じています。そうした日本のよさを広めるための教育も実施していきたいと思っています。とにかく、私自身が「通いたい!」と思える、夢のような大学になる予定です。
-エステティック業界の今後にはどのような期待を持っていらっしゃいますか?
下村氏 国が提唱する新たな未来社会「ソサエティ5.0」では、AIやIoT、ロボットなどの最新技術の導入により、さまざまな課題が解決され、人間の暮らしに余暇が生まれるとされています。こうした余暇を過ごす、自宅でも職場でもないサードプレイスとしてのエステティックサロンは、ますます需要の増大が見込まれます。現在、業界では美容外科やジムなどの職域拡大により、異業種に顧客を奪われているという側面もありますが、エステティックならではのよさを求める方も多くいらっしゃいます。同業他社は「ライバル」ではなく、「仲間」。一人でも多くのお客様にお喜びいただけるよう、視野を広く持ってエステティックを発展させていきたいと思います。