幹細胞の不死化に成功優れた化粧品の開発の一翼を担いたい
原料供給をする企業として確固たる地位を築く
私はもともと、銀座と横浜に美容医療クリニックを展開していたのですが、2011年に先端技術を探している過程で名古屋大学の研究発表「幹細胞を使わない次世代再生医療」を知りました。当時、幹細胞はまったくと言っていいほど化粧品業界や美容医療において事業化されていませんでした。名古屋大学に通ううちに研究プロジェクトのお手伝いをさせていただくことになり、幹細胞から培養上清 *を取り出す技術を用いて、まずは化粧品に配合してみようと思ったんです。その結果、幹細胞培養上清を用いた化粧品『ソラリア』が完成しました。しかし、『ソラリア』を製品化するために必要な幹細胞を毎月たくさん集めるのは大変なことです。そこで幹細胞の不死化技術、つまり「死なない細胞」をつくろうと考えました。名古屋大学とタカラバイオ(株)の協力を得て、2012年に不死化幹細胞(ImS細胞)の製造技術を確立し、後に取得する国内外の特許を申請。この年、(株)Cysayを創業しました。ImS細胞は乳歯などから歯髄を分離し、4つの遺伝子により細胞を不死化するため、同等品質の再現を可能にし、ドナー不足の解消およびドナーの顔が見える優位性を持っています。その後、我々は『ソラリア』に続き、『プレンツェル』というブランドも開発。全国のエステサロンや美容医療クリニックで導入され、約6万人の方にご利用いただいたことがモニターのような役割を果たしました。2020年ごろからは化粧品販売を終了して原料供給をする企業として歩み始め、現在、30社を超える化粧品メーカーに化粧品原料を提供しています。
2025年は、人や動物への臨床がスタート
2024年のトピックスとしては、医療分野になりますが、これまで12年を費やした臨床の準備が整ったことが一番に挙げられます。
2つ目はImS細胞の移植の開始です。みなさんご存知のiPS細胞というのは、体細胞(皮膚や血球など)を遺伝子操作により初期化・リプログラムしてつくられた人工幹細胞ですが、ImS細胞は幹細胞そのものを遺伝子導入により不死化し、高機能細胞に生まれ変わった細胞のことです。来年からは動物にこのImS細胞移植を行なう、動物医療への共同研究も開始予定です。今や中学生以下の人数より犬・猫の数のほうが多い時代。まずは脊椎損傷で車椅子生活を送る犬たちの治療を始める予定です。
3つ目はダーマインジェクター(マイクロニードル)の開発です。弊社の製品はマイクロニードルの真ん中に穴が開いており、その穴を通してImS細胞培養上清を注入するタイプ。細くて短いニードルが成分を角質層まで届ける新技術で、プッシュ式で操作が簡単なので、美容ではもちろん、ほかの分野でも活用の可能性が大きく広がります。一般的に化粧品は「浸透」ということに着眼点を置いていることが多いですが、幹細胞培養上清は幹細胞を「誘導」する機能を持っており、皮膚に塗った後に、顔表面や頭皮表面にいろいろな細胞を集めることができます。つまり、「入れる」のではなく、細胞を「呼び寄せる」のです。その美容理論である「皮膚細胞再生理論」を確立し、化粧品メーカーに情報を提供したいと考えています。
ImS細胞の素晴らしさをエステ業界に広めたい
私はかねてより、エステティック業界はもっと再生医療への造詣を深める必要性があると考えていました。弊社は研究・開発機関であるからこそ、自社製品の特性に左右されることなく、ベーシックな理論の上に立つことができます。よく散見されるビフォー&アフターは消費者に過度な期待をさせる可能性がありますが、それよりも大事なことは、やはりエビデンスです。弊社には12年間蓄積したさまざまなエビデンスがあり、それに基づいたロジックを文書化できています。エステティック業界も、エビデンスをもっと重視するような動きが出てきてくれたらいいですね。
2024年に弊社は、ImS細胞培養上清を用いたOEMにて製品化をした化粧品メーカーと共に、ビューティーワールドジャパン東京に初めて出展しました。来場者と話していると、ImS細胞培養上清が誇る品質の安全性やその作用に対してのエビデンスについて、ほとんど認知されていなかったことに気付かされました。今年はその認知度の拡大を一層強化していきたいと考えています。さらに大きな目標としては、いつか難病のための薬を開発したい、そう思っています。
現在、弊社の事業のほとんどは医療分野に関連しています。売上全体のうち美容分野は約10%のシェアに過ぎません。しかし私は今こそ、美容において正しい幹細胞とその幹細胞からつくられる培養上清の知識とその優位性を啓蒙するときだと考えています。化粧品を作るのであれば、再生医療分野でも多くの期待を集めるImS細胞培養上清を持っている原料供給企業を選ぼう、そのように思っていただけるよう、これからも研究開発に全力を尽くしたいと考えています。
* 細胞を培養した際に発現する多種多様の成長因子を含んだ培養液のこと。生命維持に大きく関わる幹細胞の培養液中に発現する230種類以上の生理活性物質(サイトカイン=成長因子群)の総称
「私自身は科学者ではないからこそ、人の生活や人生に重きを置いています。そのための再生医療なのです。」
株式会社Cysay
代表取締役・山下 靖弘
東京・銀座で美容医療クリニックを運営するなかで、名古屋大学の研究を通じて幹細胞培養上清に出合う。研究プロジェクトを手伝いながら、2011年に幹細胞培養上清を用いた化粧品を発売。2012年には不死化幹細胞(ImS細胞)の発明に成功し、国際特許を申請、その後取得。同年に(株)Cysayを創業。
COMPANY DATA:
社名の「Cy」は幹細胞から分泌される生理活性物質「サイトカイン」が由来。名古屋大学と「幹細胞を使わない次世代再生医療」の研究を進めるなかで、幹細胞培養上清に多くの優位性があることを発見。幹細胞の不死化技術に成功し、国際特許も複数取得。ほかにも、創薬事業、食品・化粧品原料の販売も行ない、医療と美容の両分野におけるアカデミアとして確かな技術を生み出している。