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エステと医療の知の共有が美容業界の未来を変える

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――施術の分野をデリケートゾーンに特化させたきっかけと、この部位のケアの必要性についてお聞かせください。

 

長渡代表(以下敬称略) デリケートゾーンのサロンメニューを開発した2010年ごろは、まだ「デリケートゾーン」や「フェムテック」という言葉は聞きなれないものであり、ましてやエステサロンでケアができると思う人はほぼいなかったと思います。ですが、サロンは裸に近い姿で個室に入り、普段は家族や友人にも相談できないようなケアを行なう場所。そこで施術や対話の時間を重ねるなかで、デリケートゾーンに関する深刻な悩みを抱えながらも、誰にも相談できない人が実は多いということに気付かされました。この経験の積み重ねが、デリケートゾーンに特化したケア事業を行なっていこうと決めたきっかけです。

 

住吉先生(以下敬称略) 韓国をはじめ諸外国では、デリケートゾーンのケアは割と身近なもの。しかし日本では、こういったケアについてオープンに語る文化がなく、認知度やその必要性の理解についてもまだまだ向上の余地が残されています。やはり女性にとっては大切な部位ですので、正しい知識を得て今以上にきちんとケアされることが理想ですね。

 

――デリケートゾーンケアに10年以上従事してきたからこそ感じる変化があると思うのですが、そちらについてもお話しいただけますか?

 

長渡 事業を立ち上げた2010年からしばらくは、デリケートゾーンの話やケアの必要性をお話ししても、すんなりと受け入れてくれる方はごく少数。時には「結構です!」ときつく拒否をされてしまうこともありました。

 

住吉 数年前、大手新聞社で“たるみ”というキーワードをメインにデリケートケアの重要性を啓蒙する広告が展開され、そこそこ話題になったのですが、病院への受診者数の増加にはあまりつながらなかった記憶があります。それだけ受け入れのハードルが高い部位なのでしょう。

 

長渡 とはいえ、この1、2年でデリケートゾーンを取り巻く環境は大きく変わってきたと感じています。弊社でいえば、まず立ち上げ当初は理解が得られなかったこの事業に対し、「気にしているんです」「ケアは大切なことですよね」といった前向きな反応が多くなりました。また、昨年はケア製品の売上が例年になく好調。同年リリースした業務用デリケートケア機器『ヴィオニー プロ』へもたくさんのお問い合わせをいただいており、着実に需要が増えていると感じる状態です。

 

住吉 ここ数年はメディアで取り上げられることも多くなり、皆さんにとってだいぶ身近な存在になってきているのでしょう。また長渡さんが作る製品は、細部にまでこだわった、結果の出るものばかり。私も施術を受けましたが、エステティックにこんな施術があるのかと驚きの連続でした。こういった使用感や体感が一人ひとりのお客様のなかにしっかり積み上げられているのも今年好調だった理由の一つではないでしょうか。

 

 

――2020年に立ち上げた(一社)日本デリケートケア協会はお二人が中心となって活動されているとのことですが、具体的にどのような活動を行なっているのでしょうか?

 

住吉 私は医療従事者ですから、やはり正しい知識とエビデンスをしっかりお伝えするのが一番の役割ではないかと考えています。今は欲しいと思えばすぐに情報が入手できる時代。けれども、その情報の真偽が怪しいものもたくさんあるのです。また、医療と美容は時として反目しがちですが、もともと果たすべき役割は違います。ですので適切な連携を取ることで、お客様の心の満足度と健康レベルの向上を今以上にサポートできるのではないでしょうか。私はその橋渡し役を買って出ることで、連携を強めていきたいと考えています。

 

長渡 私はメーカーとして、提供した製品の適切な使い方をしっかりお伝えすることが第一の使命だと考えています。効果を出すための解説はもちろんですが、安全かつ清潔に機器を維持するためのメンテナンスにいたるまで、サロンの利益になるとともにお客様の満足・安心につながる環境をきちんと整えていきたいです。その活動の一環としてデリケートゾーンケアに対するガイドラインを策定したのですが、こちらは住吉先生をはじめ医師の方にもしっかり見ていただいたことで、医療の観点からも問題のないものとなっています。また、この分野はまだ新しく症例も少ないので、当団体宛に個別のご相談も多くいただきます。そういったときでも医師の方と連携を密に取りながら、医療的見地を持ったアドバイスをしていけるよう心がけています。

 

――デリケートゾーンケアに特化した事業の経営者として、今後の美容業界はどうあるべきだと考えますか?

長渡 なかなか難しい質問ですね。これまでエステティック業界は、どちらかというと見た目に対するケアに注力してきたかと思います。それはそれで大切なことですが、これからは、インナーケアをはじめとする“見えない部位”に対してのケアも
しっかり行なっていく必要性を感じています。

 

住吉 インナーケアも免疫力を高める一助として行なえば、健康的な体づくりに寄与できますし、それは予防医学の一端を担うものなので非常に重要です。もちろん、サロンは医療行為を行なう場ではありません。しかし、日頃からお客様の体をよく見て、触っているからこそ、ほかの人では気が付かない変化を感じ取れるでしょうし、癒しの場であるからこそ引き出せる悩みもあるはずです。

 

長渡 医療現場ではなかなか聞き出せない悩みを聞き出し、必要があれば「病院に行ってみたら?」とお伝えできるような関係性がつくれたらいいですね。

 

住吉 そのためにも、正しい知識は必須。協会に所属する我々がお客様のきれいだけでなく、健康づくりにも寄与できるエステティシャンを育てていけるよう尽力していきたいです。

 

 

ペキュリア株式会社
代表取締役・長渡 実穂

大手エステサロン勤務を経て、2010年3月に独立し、デリケートゾーンのケアに特化した施術の提供を開始。2013年9月にペキュリア(株)を設立し、医師監修のもと、さまざまな製品を開発。2020年からは(一社)日本デリケートケア協会を立ち上げ、ケアの重要性など教育活動にも従事している。

 

一般社団法人日本デリケートケア協会
代表理事長・ 住吉 周子

東邦大学医学部大学院卒業。美容クリニック院長、ラッフルズメディカルクリニック皮膚科部長を経て、2017年より「ShukoClinic」院長に。「エステティック業界に愛と理解がある医師」として名高く、現在は人体における内面的な研究を深めるため、同志社大学生命医学科に研究生として所属。

 

 

COMPANY DATA:
ペキュリア(株)/代表である長渡実穂氏が4万人以上の女性にデリケートケアを行なってきた経験と、研究で培ったノウハウをもとに、デリケートゾーン専用の化粧品や機器の開発および販売を行なう。現在は全国に21店舗の導入サロンを展開しているが、2023年中には全国に5〜60店舗と拡大し、いつでもどこでも気軽にデリケートゾーンのケアができるような環境づくりを目指している。

 

(一社)日本デリケートケア協会/2020年7月(一社)日本膣ケア協会として発足。その後膣ケアだけではなく、より広い範囲の女性のデリケートな問題と向き合うという意味を込めて現在の名称に変更する。「性教育」「介護」「医療」など12の課題に取り組むことをミッションとして掲げ、スクール事業や資格検定業務を行なうことでフェムテックの浸透を図っている。